月下星群 〜孤高の昴

    “天下無敵の天然爛漫”
         
*船長さんBD記念作品(DLF
  

見上げるほどの大男という、所謂“巨漢”ではないものの、
筋骨隆々、屈強精悍な肢体をしており、
シャープな動線に邪魔なものはそぎ落とした末というところだろうか。
そんな自分の体躯より大きいだろう、幾つもの重しをつけた鋼のダンベルを、
何百何千と振るうのを日課にしている、とんでもない男であり。

 『無茶はすんなって言ってんのにっ。』

悪魔の実の力はどれを取っても解析不能なそればかりではあるが、
今回の騒動で当たった相手は、
殊に勝手の異なる、得体の知れないにも程があるよな奴だった。
しかもしかも、治りの早いことを誇っていたゾロだったはずが、
今回は一人だけ随分と回復が遅くて。
いつまでも意識が戻らなかったこと、
船医のトナカイドクターさんが、そりゃあもうもう案じていたって言うのにね。
なのに…事後回復に至ってないうちから、
日課に勤しむ剣豪さんへは、
専門家の言うことは素直に聞けだの、傷が開くぞ、いい加減にしろだの、
まとわりついての抗議をぶつけまくったものの、
やはりやはり“のれんに腕押し”で終わったようで。
まったくもうっと膨れつつも、
言って聞くような奴じゃないことはそろそろ飲み込めたものか。
小さな船医さんが今日の分のお叱りを一応告げて、
診察室のあるキャビンの方へと去ってゆくの。
やや高みのデッキから何とはなしに見やっていた誰かさんが、
口元から細く吹いた紫煙を潮風にさらわれつつ、
こちらも微妙な無表情にて見送った。

 “まだ本調子じゃあないらしい…か。”

不気味な霧に覆われ、
迷い込んだ船は二度と出られぬとまで噂されてた海域で、
呪われた島として徘徊していた巨大な海賊船。
他人の影を切り取って別の体へ封入出来る、
自身の影も自在に操ることが出来るという、
そんな掴みどころのない能力者だったゲッコーモリアが支配していた、
巨大な海賊船“スリラーバーク”とやらから、
その強烈な呪縛を粉砕しがてら、脱出しおおせたばかりだってのに。

 『ルフィの影が入ってた、あ〜んな大きなゾンビとボロボロになるほど戦って。
  しかもしかも朝日が昇るのと競争になっちゃって。
  間一髪、本体が消えかけたほど危なかったような目に遭ったくせに。」

チョッパーが知っているのはそこまでで、
その後にもうひと悶着、
それもこたびの騒動でルフィが受けた負荷全て、
その身へ引き受けもしたという経緯までもを知る者は限られており。
そのうちの一人であるサンジとしては、

 “あれだけのことを引き受けといて、
  ほんの2、3日で立って歩いてるってだけでも奇跡だっつうの。”

疲れてたって自分からは言うまい。
それとは逆に、
周囲がどれほどドタバタしていても、
眠いときは眠り続けるマイペース野郎でもあるのだ。
それが目覚めて鍛練を手掛けてるということは、体内補完は済んだということで。
やりたいようにやらせるしかない…には違いなく。

 “しょうがねぇな、ったくよ。”

せめて食い物でのフォロー、
精気補充に効き目のありそうなものを、
こそりと作ってやろうと構えておいでのシェフ殿が、
仕込み途中のキッチンへ、のんびりと戻ったのと入れ替わり、

 「…何しとんじゃ、お前は。」

そこもまた立派な一部屋になった見張り台から、
するするするっと甲板まで。
ゴムの腕を伸ばし伸ばしして降りて来たのが、

 「血が足りてないんじゃねぇか? ゾロ。」

おやつだったが1個やると、
自分の頭ほどありそうな骨つき肉を差し出す船長さんだったりし。
それへは色々と…どこに隠しもってやがったとか、
つまみ食いならサンジに半殺しの目に遭うぞとか、
あんまり物事に、そしてルフィにも動じないゾロであれ、
突っ込みどころが満載だった中から、

 「…嵐でも呼びたいか。」

人に食い物をやるという行為、このルフィが進んで言い出すだなんて。
その後にはロクでもないことが起きてなかったかと思い出しつつ、
ついつい目元を眇めてしまったゾロであっても責められはすまい。

 「何だとー。失敬だな、ゾロは。」

まあ、言われた本人は責めるかもですが。
(笑)

 「人の皿から食いもん掠め取る奴からそんなこと言われてもなぁ。」
 「まだ言うかっ。」

せっかくの好意をと膨れつつ、
その腹立ち紛れか、
早速にも“やる”と言ってた肉塊にかぶりついた船長さんであり。
リスかおサルの頬ぶくろのように、
ゴムの頬っぺをパンパンに膨らませての“おやつ”を楽しむ姿を見、
それでやっと、

 「…。」

目許がこっそりと和む辺りが、
相変わらずな彼なりの過保護っぷり。
誰も気づいていないと思ってちゃあ いけない。
仲間に年上が増えた分、

 「年齢相応なところもお持ちなのですね。」
 「日頃とのギャップから、むしろ幼く見えるほどでしょう?」

声でしか苦笑なんだか驚きなんだか判りにくい言いようをするブルックへ、
こちらさんは見たまんまの苦笑を くすすと差し向けて、
ロビンが相槌を打っていたりするのだが、
まま、外野の見解はそのくらいにしておいて。


  「いつだって治りが早いのが、一番最後になったんだ。
   心配くらいすらぁ。」


もぎゅもぎゅとおやつを平らげてから、
そんなご意見を差し向けてくださった船長さんは、
油で汚れた口の回りを、ぐいぐいとタオルで拭ってくれる相手の、

 「そうかい、そうかい。」

気のないお返事へ むうと再び膨れて見せたものの。

 「…あ、こらっ。」
 「聞こえねえぇっ♪」

まだ途中だったところ、ぐいとそんなお顔を押し込み、
相手の 見事に筋肉のついた腹を目がけて、
体当たりならぬ“顔当たり”を敢行したものだから。

 「あれ? まだトレーニング前だったんか?」
 「…まぁな。」

汗の匂いがしない肌、
それと判るのも問題なくないかというツッコミはともかく、

 「なぁんだ、ここまでって引き留めに来たのによ。」
 「じゃあ、これから始めんのは構わねぇのか?」

さあどうしよか、と。
そこまで考えてなかったのは どうやら本当であるらしく、
こちらの腹に頬をつけ、ひょこり小首を傾げる屈託のなさよ。

 “…なんだかなぁ。”

こんな小柄で屈託のない、言われなきゃあ大柄なガキにしか見えない少年が。
世界の大部分を占める外海世界からは、
依然として“魔海”と呼ばれて恐れられてるゴールドラインを快進撃中。
海軍本部さえ震撼させたその末に、億単位の賞金をつけてしまうほど、
破天荒にして規格外な存在なのだと、一体誰が思おうか。

 「…。」

複雑周到な思惑なんてものとは縁遠く、
よくも悪くも直感で行動するのを旨としており。
そんな後先見ない性格から、
余計な厄介ごとへも山ほど首を突っ込んで来た懲りない奴で。

  ただ

  どんなに苦戦を強いられようと、
  どんな怒りにその身を震わせようと、
  想いの芯が揺るがない強さは半端じゃなくて。

不器用なればこその大回りをしたとても、
大元の有り様、何をどうしたいという指針を見失わない頑迷さは、
かたくな頑固というよりも、
むしろ とびっきりの柔軟さなのかも知れず。

 だからこそ

どこか他力本願ぽい くだらない能力ではあったが、
思えば、あそこにいた幹部連中が揃いも揃って持っていたカラー、
“掴みどころがない”という特性は、
打撃(若しくは斬撃)中心という力自慢の自分らには、
最も相性が悪い、厄介な相手でもあって。
だっていうのに、

 “よくもまあ、諦めさせたよな。”

他の連中のも含め、モリアに“影を返させる”よう仕向けられたのは、
叩き合いも同様な我慢合戦の末のこと。
馬鹿の一つ覚えのように 絶対絶対諦めない、
単純なればこそ、本物でないとすぐにも折れよう そんな“強さ”も持ち合わす、


  彼こそ、絶対無敵の海賊王


ああ、そうだったね。
何としてでも海賊王になるんだ…じゃあなくて、
海賊王になる男、なんだったよね。


  何だよ。
  何がだ。
  さっきから人ン顔見て笑ってばっか。
  そうだったか?
  判んねぇとでも思ったか。
  そうさな。お前って鈍感だしな。
  む、ゾロに言われたくねぇ。


人の腹にくっついたままで、されど言いようは一丁前な船長さん。
麦ワラ帽子が背中へとすべり落ちるほど仰向いたのへ、
何だよとこちらは上から見返せば、

 「う…。///////」

男臭い笑みに気圧
(けお)されてるところが他愛ない、
それでも彼こそが“海賊王”だと疑ってやまぬ、
こちらも世界一の剣士を目指す、
未来の大剣豪さんのこぼした苦笑が、
どこまでも底のない海みたいな空へと、潮風に攫われてった午後でした。




  〜Fine〜 09.5.12.


  *取り留めのない、今更な話ですいません。
   (しかも舞台になってる時間帯も古いし…。)
   でも、ふっと思ったのが、
   打撃系戦士ばっかりな顔触れの麦ワラ海賊団だってのに、
   スリラーバーク編ほど不得手な相手でも、
   結果、たった一晩でやっつけちゃったこと。
   尾田センセーはどこまで不可能をクリアしてくつもりなんでしょうね。
   そして、ルフィちゃんはどこまで、
   可愛いまんまで無敵になっていっちゃうのかvv
(おいおい)

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